本文まで移動

Hokkaido Digital Museum

さまざまな北の民族を知り、北海道で新たな文化が始まる兆しをたどる

斜里町「チャシコツ岬上遺跡」。雪が積もり、オホーツク文化の竪穴住居跡のくぼみがはっきりわかる。2019年、国の指定史跡となった(写真提供 斜里町立知床博物館)

3日目

いよいよ最終日。再び1日目に訪れた網走市へ向かいます。

紋別市街の宿

directions_car 車で約2時間

北海道立北方民族博物館

モヨロ貝塚から出土した“モヨロのビーナス”こと「マッコウクジラ歯製女性像」

ここは、これまで訪れた地域の博物館とは少々趣が異なります。北方圏地域を専門とする、日本で唯一の、世界的にも数少ない民族学博物館です。東はグリーンランド、西はスカンジナビア半島まで30を超える北方民族の資料を収蔵しており、北海道のアイヌ民族も含まれます。特徴的なのは、民族で分けるのではなく「衣服」「交易」「食」などのテーマごとに展示していることです。たとえば「精神世界」のテーマでは、クマ送りの儀礼にまつわるアイヌ民族の資料とともに、同じようにクマを神聖視する文化を持つニブフ、ウイルタなどサハリンの民族についても展示しています。こうした北方民族の共通性に注目することで、北方文化の世界的な広がりがわかるようになっています。
注目は、「生業」のテーマにある、網走市内で収集されたアイヌ民族の海獣狩猟用の道具。長い木製の柄の先が二叉になっていて銛先がついています。このように柄まで完全な形で残っているのは大変珍しいとか。司馬遼太郎も、ここを訪れたときこの狩猟具に注目しており、『オホーツク街道』にも登場します。
考古資料は、北東アジアと深いつながりを持っていたオホーツク文化が中心で、とくに“モヨロのビーナス”と呼ばれる「マッコウクジラ歯製女性像」は必見。ワンピースのような服をまとい、ゆるやかに腕を曲げた姿は神秘的です。モヨロ貝塚の出土物ですが、この女性像や水鳥の文様が付いた土器など、貴重な実物資料はこちらに収蔵されています。そのほか、北海道内のオホーツク文化の資料がレプリカを含めて揃っているので、オホーツク文化について総合的に知ることができます。
体験メニューも豊富で、ユニークなところではカヤックに乗る体験も。そして、ミュージアムショップには、地元や現地の人々との協同で制作している北方民族のグッズがずらり。ほかにはない珍しいものが揃っているので、旅の記念になり、お土産にも喜ばれそうです。

オホーツク式土器の展示。口の広い壺形や甕(かめ)形で、ソーメン文などの文様が土器の上半分にのみ付けられているのが特徴
テーマ展示のようす。「衣服」のテーマでは、アザラシの腸 で作られたパーカーや、サケの皮で作られた上着とズボンなど、世界各地の北方民族の珍しい衣類が揃う
ミュージアムショップでは、中央アジアの遊牧民による伝統 的なカザフ刺繍の布を、ポーチなどにリメイクしたグッズが人気

北海道立北方民族博物館 MUSEUM ページへ

directions_car 車で約45分

斜里町立知床博物館

カメのような形から“カメ岩”とも呼ばれるチャシコツ崎。この岬全体が遺跡になっており、「チャシコツ岬上遺跡」は頂上にあたる

旅の締めくくりは、知床半島西部に広がるまち・斜里町へ。北海道でも遺跡が大変多いところで、旧石器時代から近世アイヌ文化まで380カ所以上見つかっています。斜里の地は、オホーツク海沿岸の要衝のひとつだったと考えられます。
斜里町には、近年話題となっているオホーツク文化の遺跡があります。場所は、市街地から車で約40分のウトロ地区。オホーツク海に突き出した岬・チャシコツ崎では、約1200年前(8〜9世紀)のオホーツク文化末期の住居跡が31基見つかっています。この「チャシコツ岬上(みさきうえ)遺跡」は人を寄せ付けない断崖絶壁の岬の上にあり、あえてこのような場所に居住した意味がありそうです。ちょうど、北海道の大部分に広がっていた擦文文化の人々がオホーツク海沿岸まで進出してきた時期と重なり、異文化への警戒の意味があったのかもしれませんし、海を見渡せることで食物となる動物たちや波の様子を見るのによかったのかもしれません。
しかし9〜10世紀ごろ、オホーツク文化と擦文文化が融合し、道東に「トビニタイ文化」というハイブリッドな文化が誕生します。チャシコツ岬上遺跡からも両方の文化の特徴を持つトビニタイ土器が見つかっており、文化の移り変わる時期を示しています。2017年には、奈良時代の本州で鋳造された貨幣「神功開宝(じんぐうかいほう)」が発見され、擦文人を介した本州との交流も見えてきました。こうした時期の資料は少なく、北海道の文化史の変遷で解明されていない部分をつなぐ重要な遺跡と言えます。
遺跡のある岬に立ち入ることはできませんが、博物館ではVRによる遺跡見学体験を実施。岬での暮らしを紹介するプロジェクションマッピングのコーナーもあります。出土品では、フクロウのような動物の彫像が見つかっていて、とても珍しいものです。この彫像がフクロウなのかどうか定かではありませんが、知床半島はシマフクロウの主要な生息地であり、アイヌ文化でも神聖な動物とされています。こうしたことからも、知床半島をはじめ豊かな自然が人々の暮らしと文化に大きく関わってきたことがわかるでしょう。

※VRは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、利用できないことがあります。

*写真はすべて「斜里町立知床博物館」提供

「チャシコツ岬上遺跡」を紹介するプロジェクションマッピング
「チャシコツ岬上遺跡」を含む、斜里町のオホーツク文化の出土品の展示
土器の展示では、トビニタイ文化とオホーツク文化、擦文文化の土器を比較できる

斜里町立知床博物館 MUSEUM ページへ

directions_car 車で約1時間

女満別空港

あらためてオホーツクに生きた人々へ思いをはせ、「オホーツク街道」の旅を振り返りながら帰途につきます。

museum Museum掲載されているミュージアム

arrow_upward PAGE TOP